認知症の代表的な症状として『物忘れ』があります。
同じことを何度も聞かれると、周りにいる家族はうんざりしてしまうこともあるでしょう。
ではその時、当の本人はどんな気持ちなのでしょうか。
認知症の人の心の中、ちょっと覗いてみませんか?
どうして忘れちゃうの?
人の記憶は、①情報を受け取る②それを保管する③必要に応じて呼び起こすという3つのステップから成り立っています。加齢による物忘れは、③必要に応じて呼び起こす機能が低下している状態です。脳にはその情報が一度保管されているので、周囲が丁寧に説明すればそれが記憶を呼び起こすきっかけとなり「ああ、そうだった。」と納得しやすいのです。
ですが、認知症による物忘れは①情報を受け取る機能が低下しているので、そもそもその情報が脳に書き込まれていない状態です。なので、周囲がどれだけ丁寧に説明しても「初めて聞いた」ということになります。
あなたならどうしますか?
ちょっと自分に置き換えてみましょう。例えば家族が昨日食べたケーキの話をしています。「昨日のケーキおいしかったよね。」と言われましたが、あなたにはケーキを食べた記憶そのものがまったくありません。
「そうだね、おいしかったよね。」ととりあえず話を合わせますか。「そんなもの食べたっけ?」と聞き返しますか。「自分だけおいしものを食べてずるい!」と怒りますか。あなたならどうしますか?
その時心の中は…
とりあえず話を合わせてみたものの、どんどんかみ合わなくなってしまったら。「えー、忘れたの?」と呆れられたり、驚かれたりしてしまったら。「自分も食べていたじゃない!」と逆に怒られたりしたら…。あなたの心は不安でいっぱいになるのではないでしょうか。
そうです。物忘れしてしまう人の心の中は「不安」でいっぱいなのです。「また変なことを言ったかもしれない。」「呆れられるようなことを言ったのかもしれない。」「何か他にも大事なことを忘れているのかもしれない。」という不安と混乱、もどかしさでいっぱいな状態なのです。
だからそれを少しでも解消するために繰り返し質問をするのです。
「なんでそんなことをするんだろう?」を解決するには、相手の立場に立ってみるのが良い方法かもしれません。でもそれってなかなか難しいことですよね。
ですが、こういった物忘れの仕組みや感情の流れを少しでも知っていたら、少しでもその気持ちに寄り添うことができるかもしれませんよ。
介護老人保健施設で介護福祉士として長く働き、ケアマネジャーを経て、地域密着型通所介護の所長を務めていました。
高齢者やそのご家族が、いきいきと健康的に過ごせるような生活情報をお伝えしてまいります。